日本コーポレートガバナンス研究所はコーポレートガバナンスの向上を通して自由主義経済の発展を目指します
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<目次>
皆がバフェットの言うことを実践したならば
ベストプラクティスとベンチマーキング
ゼロから始めよ、役員報酬制度改革

03_皆がバフェットの言うことを実践したならば 2019/07/02

偉大な投資家ウォーレン・バフェットに資産運用のアドバイスを聞くと、90パーセントをS&P500(上場大型株500銘柄株価指数)と連動する投資信託で、残りは短期国債で良いと言う。今なら、低コストと流動性の点から、S&P500のETF(上場投資信託)を買っておけということになろう。では、もし多くの投資家がこういったETFによる運用を行うと、ガバナンスに重要な議決権にどのような影響がでるのだろうか。

近代ポートフォリオ理論の教える最適投資は、個別銘柄ではなく、「マーケット・ポートフォリオ(全てのリスク資産の時価総額加重平均ポートフォリオ)を持て」であるから、バフェット方式は理論的にもほぼ支持される。それだけではなく、現実にS&P500を凌駕するパファーマンスを中長期的に維持することは非常に困難なことが知られている。

ETFは我が国でも急速に普及している。ネット証券などでは、日経平均株価の騰落率の2倍として計算された指数に連動するレバレッジ型ETFが、日間どころではなく月間で売買代金ランキングトップを維持するまでになっている。いま、日経225に連動するETFを例に取ると、機関投資家は日経225銘柄の現物を購入して、日経225の動きを複製し、それをETFとして投資家に売ることができる。(実際には全銘柄を購入しなくても十分複製可能)この場合、機関投資家が議決権を持つことになるので、機関投資家のスチュワードシップが問題となる。一方、先に述べたレバレッジ型ETFは合成的であり、現物ではなく先物やデリバティブを組み合わせて株価指数自体とか、指数の逆の動きや増幅された動きを複製する。この場合、当然、のことながら議決権は誰も持たない。新たに、議決権を持たないプレーヤーが株価形成に参加する問題を考える必要がでてくるが、これは別の機会に議論したい。

現物複製型のETFのスチュワードシップが重要であった。機関投資家は、投資先企業とその事業環境を深く理解した上で、投資先企業との対話等により、その企業の持続的成長と顧客の利益を両立させることが必要となる。S&P500や日経225は大型銘柄であり情報量が多い上、こういったETFは基本的に銘柄の入れ替えは少なく、長期的保有となる。とはいえ、保有する現物銘柄企業との建設的な対話を相当数こなさなければならない勘定となる。しかし、ETFは低コストが重要な特徴であり、信託収入はごく低く、スチュワードシップに配分できる資源には限界がある。

さらに、全世界に投資できることで有名なバンガード社のトータル・ワールド・ストックETFにいたっては855銘柄、50ヶ国にわたるポートフォリオである(2019年7月1日現在)。全銘柄・全世界での十分な調査と対話が可能だとは思えないし、きめ細かい議決権行使もできないだろう。ましてや、世界的にみると、ETF機関投資家は、バンガード、ブラックロック、ステートストリートの3社寡占状況である。各社の顧客数は膨大で多様であるから、顧客利益の追求は容易ではない。最近では、ESG(環境・社会・ガバナンス)やサステイナビリティーまで考慮しろという要請が加わり、問題をさらに複雑化させている

今、できることは何だろうか。株主総会を資本主義的な金銭投票だと考えれば、機関投資家の寡占化は間接資本主義投票の世界という解釈が可能となる。投資家は売買によって、自由に機関投資家を選択し、選択した機関投資家を代表者として、ETFを保有する間、自らの議決権行使を信託しガバナンスを委託することを通じて間接的に経営参加をし、意思の反映・実現を図るわけである。となれば、さしずめ機関投資家は政党であり、ETFは代議士となろう。当然、政党(機関投資家)の公約やマニフェストとその実現の検証が重要となる。したがって、何にもまして、機関投資家の議決権行使に関するポリシーの透明性と、顧客利益向上の検証手段の充実が課題となる。

大林 守

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02_ベストプラクティスとベンチマーキング-現代のコーポレートガバナンス規整-  2019/07/01
ベストプラクティスとは、世間が行っている最善と思われる実務をいう。最善と言ってもどういう意味で最善かと言うことが問題になるが、企業社会においては好業績を上げている企業の実務で多くの人から見て確かに合理的であると納得できる実務と考えれば良いであろう。ベンチマーキングとはベストプラクティスに至っていない企業が、ベスト・プラクティスをお手本として、自社の実務を再構築することをいう。

コーポレートガバナンス先進国の英米では、会社法のコーポレートガバナンス規整はシンプルであり、基本的には、株式会社においては、株主が株主総会で取締役を選任し、取締役が構成する取締役会が事業に関する意思決定を行いそれを執行すると定めているだけである。それに、ロンドン証券取引所やニューヨーク証券取引所が、多くの優良企業が行っている優れた実務つまりベストプラクティスを参考に、取引所の上場規則により独立取締役および指名・報酬・監査の三委員会からなるガバナンスシステムを推奨している。ここで重要なことは、取引所規則による強制ではなく、"Comply or Explain"方式で普遍化しようとしていることである。この方式の意義については別の機会に譲ることにして、以下では現代のコーポレートガバナンスの理念とベストプラクティスを整理する。

コーポレートガバナンスのベスト・プラクティスを詳述しているのがJCGRのコーポレートガバナンス原則であるが、ここでは
コーポレートガバナンスに関するJCGRの考え方の概略を紹介する。

コーポレートガバナンスとは

株式会社の前身は多額の資金を集め大規模な事業を行う会社である。会社法では、株式会社の他に合同会社、合名会社、合資会社が会社として定められている。小規模な事業を行うことが前提とされているこれら三社においては、出資者自身が経営者として会社を経営することが原則になっている。しかし、出資者つまり株主が多数いる株式会社においては、株主は株主総会で取締役を選任し、取締役が構成する取締役会に株式会社経営を委ねることになっている。ここで取締役は株主であることが要件とされていない。つまり、極言すると、株主は多額の資金を預けて赤の他人に会社経営を任せることを意味する。

他方、会社法は、会社の目的は営利であるとして、営利を確保するためにさまざまな仕組みを定めている。たとえば、監査役会設置会社、指名委員会等設置会社、そして監査等委員会設置会社という3タイプの取締役会制度である。取締役が、取締役会の職務を通して営利を確実に行うように規整している。ここで営利とは、事業を行うことにより利益を上げ、それを出資者である株主に分配することである。株主にとっては、利益は多い方が良いので株主は、取締役会が利益の最大化を追求することを望む。ただし、事業にはリスクがともなうので、短期的な最大化でなく長期的な最大化が重要である。これを株主価値の最大化という。取締役会は、株主により長期的な観点からの利益最大化つまり株主価値の最大化が期待されていると考えなければならない。もし取締役会がその期待に応えなければ、次の株主総会で現在の取締役は選任されず、株主価値の最大化を目的とする取締役が選任されることになるであろう。

株主の期待は株主価値最大化を追求する取締役会であるが、その構成員である取締役は必ずしも株主ではない。開示制度により会社の重要な情報は株主に開示されることになっているが、取締役は会社の中にいて会社内の事情をよく知っているが、株主は会社の外にいるので、取締役や取締役会のすべてを知ることはできない。それゆえ、取締役会が株主にとって最善の経営をしてくれるとは限らない。会社法はそのことを前提として、いろいろな仕組みを定めている。それが上述の会社法のコーポレートガバナンス規整である。

コーポレートガバナンスのベストプラクティス

世界的なコーポレートガバナンス改革の流れは1990年代に始まるがその中で生まれてきたベストはプラクティス次のような構成になっている。

1.【独立取締役】取締役会を構成する取締役は独立取締役を過半の多数とする

2.取締役会は取締役とは別人の執行役員を選任する。執行役員の最上位をCEOと呼ぶ。
3. 取締役会は、株主の利益に重大な影響を及ぼす事業上の意思決定(業務意思決定)を行うが、業務執行はCEO以下の執行役員に委ねる。
4.  【三委員会】取締役会は、下部機関として、指名委員会、報酬委員会および監査委員会の三委員会を設置し権限を委譲する。
5. 【指名委員会】取締役会は、執行役員のトップであるCEO(最高経営責任者)以下の重要な(業務)執行役員を選任する。CEOは業務執行の責任者として、重要な意思決定やリーダーシップに責任を負うので、それに相応しい優秀な人材でなければならない。取締役会の構成員つまり取締役もそれに対応しうる優秀な人材でなければならない。そこで、CEO以下の経営陣から独立でかつ優秀な人材を取締役として選任するために、取締役会は独立取締役から構成される指名委員会を組織し、株主総会に提出する取締役候補者のリスト作成を委ねる。
6.【報酬委員会】CEO以下の執行役員として、CEO以下優秀な人材が選任されても、株主価値の最大化に向けて動機づけされていなければ、株主にとって何の意味もない。すべての執行役員に共通で、かつインセンティブとして有効なのは経済的価値のある報酬であるとして、経営陣一人ひとりに対してインセンティブ報酬を設計するのが現代のコーポレートガバナンスのベストプラクティスである。
7.【監査委員会】利益の追求、株主価値追求のプレッシャーが強いと、経営陣は不正経理を行ったり虚偽の財務報告をしたりして業績不振を隠蔽したり、あるいは自己の利益を詐取したりという不正を犯しがちである。また、経営陣でなくても、会社の現場のあちこちで不正が行われたり、過誤の実務が行われたりする。内部統制に気を配っていてもどうしてもこのような内部統制違反の事故は避けられない。そこで、内部統制が正規に行われているかを検証する内部監査が不可欠である。内部監査が正しく行われるためには、内部監査人として優秀でかつ独立な人材が確保されなければならない。内部監査人の独立性を検証するのが監査委員会の使命の一つである。他方、経営陣には株主およびその他のステークホルダーに対して財務情報の開示-ディスクロージャー-が強制されている。開示情報の適正性を確認するのが監査委員会の第二の使命である。さらに、財務情報に関しては、独立な外部監査人による会計監査が法律によって求められている。外部監査人の独立性を検証するのが、監査委員会の第三の使命である。

独立取締役から構成される三委員会によって、優秀な経営陣を構成し、株主価値最大化のために株主価値創造を目指す機能が、現代のコーポレートガバナンスである。

若 杉 敬 明
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01_ゼロから始めよ、役員報酬制度改革 2019/07/01

アベノミクスのコーポレートガバナンス改革の潮流の中で誕生した東証のコーポレートガバナンス・コードが、指名・報酬などの任意の委員会の設置を求めたり(4-10①)、あるいは取締役会が役員報酬の決定に当たっての基本方針と手続きを取り上げたり(31)、業績連動報酬・現金報酬・自社株報酬の割合に関心を持つことを勧めたりで(4-2①)、企業の役員報酬に対する関心が急速に高まっている。これまでアメリカの役員報酬とくにCEOの高額な報酬には関心を持っていたが、日本企業の多くは他人ごと受け取ってきた。その一方で、メジャーリーグに移籍した日本人選手の高額な報酬やプロゴルファーが稼ぐ高額な賞金は抵抗なく受け容れてきた。優秀なアスリートが多額の報酬を得るのは当然だと考えるなら、企業を成功に導く従業員や株主に多大な恩恵をもたらした優秀な経営者が高額な報酬を得ることが、なぜ悪いことなのであろうか。

ファミリー企業、オーナー企業の経営者も多額の所得を享受している。彼らが「良識」とまでは言わなくても社会的な常識に合致している経営を行っている限り誰も文句は言わない。むしろ、好業績を上げているそれらの企業では、同業他社よりも高い給料やボーナスを得て、従業員も恩恵に与っている。しかし、いわゆるサラリーマン経営者が多額の報酬を得ると、途端に白い目で見られる。多くの人は、オーナー経営者は自分たちと異なる人種であるが、サラリーマン経営者は自分たちの同類だと考え、嫉妬を感じるのであろうか。

このようなわが国独特の株式会社観が支配するもとで、コーポレートガバナンス改革の一環として、法定にせよ任意にせよ報酬委員会を機能させるためには、あるいは役員報酬制度を設計するためにはどのような工夫が必要であろうか。

機会平等と結果平等
わが国では、機会平等ではなく結果平等の考え方が支配的である。職業を例にとって考えて見よう。前者の考え方は、すべての人に等しく機会が与えられており、会社であれば、自分の能力や考え方にあった仕事を選ぶことができるという仕組みである。仕事によって報酬が違う場合には、ある仕事に就いた人はその仕事独自の報酬で我慢しなければならない。高い報酬を臨む人は、高い報酬が得られる仕事に就けるよう自分の能力を高めるか、あるいは価値観が異なる仕事でも諦めてそれに従事するかしなければならない。

結果平等の典型は、同じ会社のばあい、たとえば入社年次が同じであれば、同じ報酬をもらうという年功序列方式である。ある意味では公平に見えるが、個人個人の能力や好みなどが無視されており、実際には不公平であるという面もある。

結果平等は、いわば社会主義の考え方で、「持てる者」が作られず「持たざる者」から構成される社会である。怠け者には心地よい社会であるが、有能な人にとっては苦痛の社会である。その意味では、機会平等の社会は、「能力を持つ者」には快適な社会であるが、「能力を持たざる者」にとっては過酷な社会である。しかし、機会平等の下では一人ひとりが持つ能力が適正に利用されることになるので、効率的な社会が実現するが、一方で人々の間で所得の不公平が生ずる。時代に合った能力に恵まれ高い所得に得られるか否かは、自分にはコントロールできない生まれつきに依存する部分が大きいからである。もちろん、持って生まれた能力を生かす本人の努力にもよるであろうが、運不運の要素が大きい。したがって、国の社会保障制度などが不可欠になる。また、高額の報酬を得られる者は、多額の税金を納め貧しい人を助けたり、あるいは社会的な活動のために寄附をするのが社会的義務であるという意識を育むことが重要である。

年功序列報酬vs業績連動報酬

上述のようにわが国の年功序列の制度は結果平等に基づいている。それに対して、コーポレートガバナンスのベストプラクティスとして採用されている業績連動報酬などによるインセンティブ報酬制度は機会平等の精神に基礎を置いている。コーポレートガバナンス・コードが報酬委員会を謳い業績連動報酬や株式報酬を唱えるのは、まさに結果平等の社会に機会平等を持ち込むことを意味する。伝統的な日本的な考え方に馴染んでいる、役員報酬制度の担当者はどのように対応してよいのか戸惑うのではないだろうか。

戸惑いから抜け出すために担当者がまず理解しなければならないのは、従来の制度における弊害である。確かにこれまでも役員に対するボーナスなどがあり業績連動報酬も行われてきた。あるいはストックオプションが導入され株式報酬も行われてきた。しかし、固定給に対する業績連動報酬の変動部分の割合が小さく、業績連動報酬分のリスクは固定報酬を脅かすほどではないケースがほとんどである。このような役員報酬制度の下では、従業員のインセンティブは出世であり、まずは取締役になること、そして次に社長に昇進することである。このような仕組みの中では、社長であることのプライドは何にも代えがたいインセンティブであろう。交際費やゴルフの会員権などのインセンティブもあろうが、最大のメリットは社長の座そのものである。社長にとってもっと恐ろしいことはその座を失うことである。

リスクの下での行動原理に、期待損失最小化原理というものがある。これは、利益を得るチャンスと損失を被るリスクがある代替案があるとき、利益を無視して損失だけを想定し、損失が最小である代替案を選択する行動原理である。

利益を追求して新しい事業などにチャレンジしなければならないばあい、チャレンジにはリスクをともなう。チャレンジが失敗したばあい、社長の座を降りなければならないとしたら、期待損失最小化原理の下では、社長の座を降りるリスクがない「何もしないこと」を選択することになる。また、会社の中で過去の不祥事が見つかったとする。それが明るみに出たら自分が責任をとらざるを得なくなり、社長の座を降りなければならなくなるとしたら、リスクをゼロにできると考えて不祥事を隠蔽しようとするであろう。また、業績が予想以上に悪化していたばあい、社長の座を守るために粉飾決算に走るかも知れない。実際には、かえって会社を危機に追い込んでしまい、社長の座を失うばかりでなく、会社の存続さえ危うくするかも知れない。実際ここで上げたような例は頻繁に発生してきた。日本の経営者の不祥事は、金銭が絡まないので、経営者の私欲を追うするものではなく、会社を思ってのことだと弁護する意見もあるが、このように考えれば自己の保身というエゴに他ならない。これらは役員報酬制度の欠陥によるところが大きいのではないだろうか。

報酬委員会の設立の提案

業績連動報酬などのインセンティブ報酬制度を素直に受け容れられる会社のばあいには、まず①役員報酬の基本方針を決め、その後に②基本方針に則した業績連動報酬決定方式を定めれば良いと考える。
しかし、業績連動報酬などのインセンティブ報酬に直ぐには馴染めない会社のばあいには次のようにしたらいかがであろうか。
①法定、任意にかかわらず報酬委員会を組織する
②役員報酬基本方針を策定し、個人ごとの役員報酬決定方式を明確にすることを定める
③現在の役員報酬決定方式を、社長および役員報酬の決定の際社長から相談を受けている取締役などから聞き出す
④現在の役員報酬決定方式を報酬委員会で共有する
⑤可能であれば、あるいは時期が到来したら、それを取締役会でも共有する。

このようなことを数年続けていけば、取締役会の役員報酬に関する理解や取り組みも変化していくのではないだろうか。世界のコーポレートガバナンス改革の潮流とはかけ離れているが、まず一歩を踏み出すための方策として提案したい。

若杉敬明

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